大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和51年(わ)4515号 判決

主文

被告人両名を各懲役一年六月に処する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日から二年間それぞれその刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、証人的場武久に昭和五三年一一月二八日に支給した分は二分し、その一を被告人吉田の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人吉田多良は、昭和四八年五月一六日大阪府東大阪市長堂一丁目一〇一番地の五に本店事務所を有する信用組合弘容(以下組合という。)の理事に就任し、同五〇年四月一日から特別融資部長を兼務し、同年五月一六日専務理事となり、引続き同部担当として同五一年一月九日までの間、特に重要と認められる大口取引先等に対する融資に関する事務を掌理していた者、被告人柴田孝は同四五年一月二八日組合理事に就任し、同四九年四月八日専務理事となり、同五一年一月一〇日から特別融資部担当(同年三月一六日からは同部長事務取扱も兼任)として、前記大口取引先等に対する融資に関する事務を掌理していた者、白石森松は同二六年一一月から組合の理事長として組合の業務を統轄していた者、児玉太郎は同三四年五月二〇日組合理事に就任し、同五〇年五月一六日から副理事長として理事長を補佐して組合の業務を執行していた者であり、それぞれ顧客に組合資金を貸付けるにあたつては、関係法令及び定款の定めを遵守するはもとより、予め貸付先の資力・信用状態を調査し、十分な担保を徴して貸付金の回収の確実を期し、あるいは同組合にある顧客の当座預金に支払資金の残高がない場合にはその当座預金からの支払いをせず、あえて支払資金の残高を超えて支払いをする場合には予めその顧客の資力・信用状態を調査し、組合の債権保全のため十分な担保を徴するなど組合のため前記事務を誠実に遂行すべき任務を有していたもの、藤田政雄は大阪市生野区巽中一丁目二〇番三二号所在のグリーン総業株式会社(以下グリーン総業という。)の代表取締役であり、かつ大阪府豊中市曽根西町三丁目三番一号所在の丸恵商事株式会社(代表取締役水沼計恵)及び同府東大阪市永和三丁目三六番地所在の永大建設株式会社(代表取締役大和清)の資金繰り全般を管理していた者であるが、

第一  被告人吉田は、

一  前記藤田から前記グリーン総業に対する貸付を依頼されるや、同会社に対する既存の貸付金の額が既に同会社から徴していた定期預金、不動産担保の価格の額を著しく超過しており、且つ同会社は収益を計上する能力がなく、その資金の殆んどを高金利で他に貸付けるなど経営内容が極めて不安定であり、他に十分な資産もなく、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながらこれを了承し、前記白石、児玉及び藤田と共謀のうえ、グリーン総業及び藤田の利益を図り組合に損害を加える目的をもつて、前記任務に背き、十分な担保を徴することなく、同会社に対し、昭和五〇年五月二三日に二億円を、同年一一月一〇日に二億五〇〇〇万円をそれぞれ組合において貸付け、もつて組合に対し財産上の損害を与え、

二  藤田及び前記水沼から水沼に対する貸付を依頼されるや、同人に対する既存の貸付金の額が既に同人から徴していた定期預金、不動産担保の価格の額に達しており、且つ同人は多額の高金利の負債を抱えていて返済能力がないうえ、他に十分な資産もなく、更に同人に対する貸付金を増加するときはその回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながらこれを了承し、白石、児玉、藤田及び水沼と共謀のうえ、水沼及び藤田の利益を図り組合に損害を加える目的をもつて、前記任務に背き、十分な担保を徴することなく、水沼に対し、同年七月四日組合において二億八〇〇〇万円を貸付け、もつて組合に対し財産上の損害を与え、

三  藤田及び水沼から、前記丸恵商事株式会社及び水沼に対する貸付金の貸付限度額の制限を潜脱する目的で設立された丸一興産株式会社(本店所在地同府豊中市曽根西町一丁目二番二号、代表取締役松尾優)に対する貸付を依頼されるや、同会社が何らの資力を有さず、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながらこれを了承し、白石、児玉、藤田及び水沼と共謀のうえ、丸一興産株式会社及び藤田の利益を図り組合に損害を加える目的をもつて、前記任務に背き、十分な担保を徴することなく、同会社に対し、同年一〇月二八日組合において一億五〇〇〇万円を貸付け、もつて組合に対し財産上の損害を与え、

第二  被告人柴田は、

一  藤田及び水沼から前記丸一興産株式会社に対する貸付を依頼されるや、同会社が何らの資力を有さず、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながらこれを了承し、白石、児玉、藤田及び水沼と共謀のうえ、丸一興産株式会社及び藤田の利益を図り組合に損害を加える目的をもつて、前記任務に背き、十分な担保を徴することなく、同会社に対し、別紙別表一記載のとおり、昭和五一年一月一七日から同年七月二四日までの間一一回にわたり、合計三億六一一〇万円をそれぞれ組合において貸付け、もつて組合に対し財産上の損害を与え、

二  藤田及び前記大和から、組合鶴橋支店(所在地大阪市天王寺区味原町一六番地の一)にある前記永大建設株式会社の当座預金に支払資金の残高がないのに同会社のために支払いをなすよう依頼されるや、同会社は多額の負債を抱えていて経営内容が著しく不振であり、返済能力も担保に供すべき資産もなく、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながらこれを了承し、藤田及び右大和と共謀のうえ、同会社及び藤田の利益を図り組合に損害を加える目的をもつて、前記任務に背き、十分な担保を徴することなく、同会社に対し、別紙別表二記載のとおり、同年二月一六日から同年六月二九日までの間三四回にわたり、前記鶴橋支店の当座預金の支払資金残高を超えて支払いをなすいわゆる当座過振による方法で、合計三億一四〇一万九五三一円の貸越しを実行し、もつて組合に対し財産上の損害を与え、

三  藤田から同人に対する貸付を依頼されるや、同人に対する既存の貸付金の額が既に同人から徴していた定期預金、不動産担保の価格の額を著しく超過しており、且つ同人は他に十分な資産もなく、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながらこれを了承し、白石、児玉及び藤田と共謀のうえ、藤田の利益を図り組合に損害を加える目的をもつて、前記任務に背き、十分な担保を徴することなく、藤田に対し、同年五月八日に三億円同年七月二四日に二、五〇〇万円を組合においてそれぞれ貸付け、もつて組合に対し財産上の損害を与え、

四  藤田から前記グリーン総業に対する貸付を依頼されるや、同会社に対する既存の貸付金の額が既に同会社から徴していた定期預金、不動産担保の価格の額を著しく超過しており、且つ同会社は収益を計上する能力がなく、その資金の殆んどを高金利で他に貸付けるなど経営内容が極めて不安定であり、他に十分な資産もなく、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながらこれを了承し、白石、児玉及び藤田と共謀のうえ、グリーン総業及び藤田の利益を図り組合に損害を加える目的をもつて、前記任務に背き、十分な担保を徴することなく、同会社に対し、同年六月一五日組合において、二億円を貸付け、もつて組合に対し財産上の損害を与え

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(弁護人の主張に対する判断)

一  まず被告人柴田の弁護人は、組合の役員職務権限に関する取り決め(検察官請求証拠等関係カード三六番の捜査報告書中にあるもの)により、特別融資部(以下特融部という。)担当の専務理事であつた被告人柴田は判示第二の各貸付についての決定権がなく、当該決定権を有する白石理事長、児玉副理事長の指示に基づき単なる機械的な事務手続をとつたに過ぎないから、同被告人には背任罪の主体となるべき身分はなく、従つて任務違背行為があつたとはいえない旨主張し、被告人吉田の弁護人も同被告人の判示第一の各貸付につきほぼ同旨の主張をする。

そこで検討するに、なるほど右取り決めによれば専務理事には純貸三〇〇〇万円以内の信用供与あるいは純貸三〇〇〇万円を超えるもので純貸額の一〇%以内の純貸増の信用供与等の決定権しか与えられてなく、これによれば、被告人両名に右制限を超えるものについての決定権がないことは弁護人主張のとおりであるけれども、前掲各証拠によれば、被告人両名は藤田等から本件各貸付の要請があつた際特融部担当専務理事としてその都度白石理事長や児玉副理事長と協議してその決定に関与し、右各貸付決定後は特融部次長あるいは特融部長代理の起案した稟議書に白石理事長らとともに決裁印を押していることが認められ、被告人両名の右のような行為は、専務理事の「理事長及び副理事長を補佐して業務を執行」し(組合定款二二条四項)、あるいは「理事長、副理事長の行う職務を補佐し、理事長、副理事長の指揮を受け、日常業務を処理し、または理事長、副理事長から委任を受けた業務を執行し、必要があれば業務全般について理事長に意見を具申」する(組合職制規程六条一項別表4)などの重要な職務に基づいてなされたことが明らかであつて、右各事実に照らせば被告人両名は本件各貸付に関し一定の包括的、裁量的事務に携わつていたものであつて、単に機械的な事務の担当に止つていたものとは到底いえない。また背任罪が成立するためには必ずしも単独の意思で処理する権限(いわゆる決裁権)のある事務に関し任務違背行為のあつたことを要しないものと解すべきであり、以上の点に鑑みれば被告人両名は背任罪にいう「他人ノ為其事務ヲ処理スル者」にあたることは明らかである。しかしてまた、任務違背行為とは他人のためその事務を処理する者が委託の趣旨に反する行為をすることをいうのであるから、被告人両名には本件各貸付にあたり必要な担保を徴するなど判示のような任務があり、同任務に背いた被告人両名に任務違背行為のあつたことは明らかである。よつて右各弁護人の主張は採用しない。

二  次に被告人柴田の弁護人は同被告人には背任の犯意がない旨主張するけれども、前掲各証拠によれば、被告人柴田は、判示第二の各貸付にあたり、貸付金の回収が危ぶまれる者に組合の資金を貸付けることそしてそれが前記のような自己の任務に違背すること及びその結果組合に財産上の損害を生じさせることについてそれぞれ認識していたことは明らかであつて、被告人柴田に背任の犯意があつたと認めるに十分であるから弁護人の右主張は採用しない。

三  被告人吉田の弁護人は、判示第一の一の各貸付中二億円の貸付は白石理事長に反対の意見を具申していた同被告人が歯痛のため組合を欠勤中に決定されたもので、同被告人は右貸付の決定に関与したことがなく、また二億五〇〇〇万円の貸付についても同被告人がその協議に加わつたときは既に貸付の基本方針が決定されたのちで、白石理事長から指示を受けてその手続をとつたに過ぎず、判示第一の二の貸付については同被告人は終始これに反対していたものであり、更に判示第一の三の貸付についても同被告人は当初から白石理事長に反対の意見を具申していたのに同被告人の不在中に右貸付が決定されたのであつて、いずれの場合も同被告人が白石、児玉らと共謀したことはなく、共同正犯としての責任は問い得ない旨主張する。

そこで検討するに、前掲各証拠によれば、藤田から昭和五〇年五月一〇日ころ要請のあつた判示第一の一の各貸付中の二億円の貸付に関し、被告人吉田は同月中旬ころ白石、児玉と協議し、その際担保不足等から無理である旨具申したものの、それ以上の反対意見は表明しなかつたこと、同月二〇日になつて藤田が支払手形決済のためとりあえず五〇〇〇万円だけでも早急に貸して欲しい旨要請したことから被告人吉田は児玉と協議したうえ、東京に出張中の白石に電話で了解をとり、同日グリーン総業に対し五〇〇〇万円の先行貸付を実行した(右先行貸付分は同月二三日本件二億円の貸付金から返済された。)こと、同月二二日被告人吉田は再び白石、児玉らと右二億円の貸付について協議しその際右貸付に応じることとなり事務処理上の手続は翌日行うこととなつたが、同被告人はこれに反対しなかつたこと、翌二三日藤田が組合を訪れ右貸付の実行方を求めたが、被告人吉田が歯痛のため欠勤していたため、白石、児玉の決裁を経てこれが実行され、被告人吉田は翌二四日右貸付の稟議書の記載内容を了承し決裁印を押したこと(以上判示第一の一の各貸付中二億円の貸付に関して)、藤田から同年一〇月ころ要請のあつた判示第一の一の各貸付中の二億五〇〇〇万円の貸付に関し、被告人吉田は同年一一月初めころ貸付の決定されたときを含め二ないし三回にわたつて白石、児玉らと協議し、その際当初内心では右貸付に反対の意向を有していたもののとりたててその旨の意見を表明することなく結局はこれに賛同したこと(以上判示第一の一の各貸付中二億五〇〇〇万円の貸付に関して)、前記水沼及び藤田から同年六月ころ要請のあつた判示第一の二の貸付に関し、被告人吉田は同月下旬ころ及び貸付の決定された同年七月一日ころの二回にわたり、白石、児玉らと協議し、その際右貸付に反対の意向を有していたもののさして強い反対意見を表明することもなく結局これに賛同したこと、これより先同年六月三〇日被告人吉田は水沼から支払手形決済のため五〇〇〇万円の先行貸付を要請され、同日白石の了解を得て同人に対し五〇〇〇万円の先行貸付を実行したのをはじめ、同様に同年七月一日から同月三日まで三回にわたり合計二七〇〇万円の先行貸付を実行した(右各先行貸付分は同月四日本件二億八〇〇〇万円の貸付金から返済された。)こと(以上判示第一の二の貸付に関して)、同年九月初旬ころ水沼及び藤田から水沼に対する貸増しを要請され、被告人吉田はこれを断わつていたところ、同月中旬ころ同被告人が支店まわりをしていて不在中藤田が組合を訪れ再び右貸増しを要請したことから、白石、児玉が協議しこれに応じる旨の基本方針が決定されたが、これを聞いた被告人吉田は不本意ながらこれに従うこととし、藤田からの要請に基づき白石、児玉の了解を得て水沼関係の支払手形決済のため同月二五日から同年一〇月二四日までの間一三回にわたり藤田名義で合計一億三九四〇万円の先行貸付を実行した(右各先行貸付分は同年一〇月二八日本件一億五〇〇〇万円の貸付金から返済された。)こと、同月二四日ころ被告人吉田は白石、児玉らと右一億五〇〇〇万円の貸付について最終的な協議をしその際これが決定されたが、同被告人は反対意見を表明することなく右貸付に賛同したこと(以上判示第一の三の貸付に関して)が認められ、更に判示第一の一の各貸付中二億五〇〇〇万円の貸付及び判示第一の二、三の各貸付についても同被告人が白石、児玉とともに稟議書に決裁印を押していることは前判示のとおりであり、以上のような犯行加担の程度に照らせば、被告人吉田が判示第一の各事実について白石、児玉らと共謀した事実を認めることができるから、弁護人の主張は採用しない。

四  被告人吉田の弁護人は、同被告人は自己もしくは第三者の利益を図り、又は本人に損害を加える目的を有していなかつたものであり従つて同被告人について背任罪は成立しない旨主張するけれども、前掲各証拠によれば、判示第一の二及び三の各貸付は実質的には前記丸恵商事株式会社に対する貸付であるところ、判示第一の各貸付を実行すれば、貸付先であるグリーン総業及びその代表者である藤田(判示第一の一の各貸付の場合)、貸付先である水沼及び同人が代表者をしている丸恵商事株式会社の資金繰り全般を管理している藤田(判示第一の二の貸付の場合)あるいは貸付先である丸一興産株式会社及び同会社をいわゆるトンネル会社としている丸恵商事株式会社の資金繰り全般を管理している藤田(判示第一の三の貸付の場合)のそれぞれ利益となりまた組合に損害を与えることになることを被告人吉田が認識していたことが認められ、同被告人は第三者の利益を図りまた本人に損害を加える目的を有していたというべきであるから、弁護人の右主張は採用しない。

五  最後に被告人吉田の弁護人は、白石理事長は組合創設以来の理事長で組合において絶大な権力を有していたことなどから、判示第一の各貸付の際被告人吉田に前記各行為以外の行為を期待することはできず、同被告人の右各行為には期待可能性がないから責任が阻却される旨主張する。

そこで検討するに、なるほど白石理事長は組合創設以来理事長の職にあつた者で組合において強大な発言権を有していたことは弁護人主張のとおりであるけれども、被告人吉田は判示第一の各貸付に反対の意向を有していたものの、白石らと貸付の可否を協議する際、反対意見あるいはさして強い反対意見を表明することなく結局は右各貸付に賛同したばかりか、先行貸付を要請されるや自ら白石らの了解を得てこれを実行したことは前認定のとおりであつて、専務理事という職務の重要性や判示第一の各貸付先の経営状態ないし資産状態からみた右各貸付内容の劣悪さ及びその規模等に照らせば、被告人吉田が右各貸付に際し、右のような行為以外に何らの行為もとり得なかつたとは到底いえず、同被告人が本件各行為に及んだことに期待可能性がないとはいえないというべきである。よつて弁護人の主張は採用しない。

(法令の適用)

被告人両名の判示各所為はいずれも刑法六〇条、二四七条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人両名の判示各罪はいずれも刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条によりいずれも犯情の重い被告人吉田については判示第一の二の罪の刑、被告人柴田については判示第二の三の各罪中三億円に関する背任罪の刑にそれぞれ法定の加重をした刑期の範囲内で被告人両名を各懲役一年六月に処し、後記の情状を考慮し、いずれも同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から二年間右の刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により主文第三項記載のとおり被告人吉田に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は信用組合専務理事の要職にあつた被告人両名が同理事長らと共謀し、多数回にわたりその任務に背き多額の不良貸付をして組合に損害を与えたもので、その犯行回数、損害額等に照らしまことに重大な事案であり、被告人らから何らの損害の填補もなされていないことなどにも徴すると被告人両名の刑責は重大であるといわなければならない。しかしながら、本件共犯者のうち白石は組合創設以来の理事長で組合内のあらゆる問題に関し強大な発言権を有していたいわゆるワンマン理事長であり、また藤田は以前土地問題で白石の弱みを握りその際同人から将来資金の援助を受ける約束をとりつけ、その後も同人の要請で組合の不良債権の回収等に従事し相当の成果をあげていたことから同人に重用され、組合内で役員に匹敵するほどの事実上の地位を得ていたものであつて、右のような状況の下で白石が藤田らからの強い貸付の要請に積極的に応じる意向を示したことから当初消極的であつた被告人両名もこれに抗し切れず判示各犯行に及んだものであり、右のような白石の組合における地位、白石と藤田の癒着状況あるいは各貸付が決定されるまでの経過や状況等に照らせば、被告人両名の本件各犯行加担の程度はさほど大きくないのみならず、本件各犯行の経緯には酌むべき事情があるというべきである。以上の点に加え被告人両名は本件により何らの利得もしていないこと、被告人柴田には何らの前科前歴もなく、被告人吉田も約二五年前に公職選挙法違反の罪により罰金刑に処せられた以外に何ら前科前歴はなく、被告人両名ともこれまで社会の一員として真面目に生活してきた者で本件についても改悛の情を示していることなど被告人に有利な諸般の情状を考慮すれば、被告人両名に対しては刑責を明確にしたうえで刑の執行を猶予することが刑政の目的に適うものと思料する。

よつて主文のとおり判決する。

別表一

〈省略〉

〈省略〉

合計 三億六一一〇万円

別表二

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

合計 三億一四〇一万九五三一円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例